5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.80 有限会社ウィルダネス 代表 佐藤 圭樹さん
事務所の場所は小樽市稲穂。編集・制作を担当した『おたる潮まつり第50回記念誌』(おたる潮まつり実行委員会発行)が好評発売中!
[本日のフルコース] 旅好き編集者が何度も読み返す 「北海道を旅する・学ぶ アイラブ北海道本」フルコース[2017.2.27]
書店ナビ | 1999年小樽に出版・編集プロダクション「ウィルダネス」を立ち上げた佐藤圭樹さん。ご出身は東京だとか。 |
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佐藤 | ええ、大学を出たあと『地球の歩き方』編集室に勤めて、32歳になった92年に小樽に移住しました。 中学生のとき、SLブームのころに3回ほど北海道に来てまして、それ以来北海道は憧れの地。移住後は東京の出版社との仕事と並行して、小樽や札幌での仕事を増やしていきました。 という、"外"から来た自分にとって北海道のことが書かれている今回の5冊は仕事上の資料本であり、何度も引っ張り出して読んでいる本。古い本ばかりですが、価値ある5冊です。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
日本海繁盛記 高田宏 岩波書店 日本海沿岸の各地にあった北前船の寄港地や、加賀の北前船主の故郷を訪ねる紀行エッセイ。北海道との関わりも深く、北前船を知る入門的な本として楽しく読める。
佐藤 | 皆さんもご存知のとおり、港町の小樽は北海道のなかでも本州各地との交易で築いた歴史があり、その歴史の一端を担い、小樽に多くのものをもたらしたのが北前船です。 この本は北前船の生きた歴史を知るうえで貴重な参考書です。紀行エッセイとしても軽妙で、楽しく読めます。 |
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書店ナビ | 10代のころから旅をしてきた佐藤さんの旅日記とかは、残っていないんですか? |
佐藤 | 中学生時代、10 日間くらいの旅をするごとに大学ノート1 冊分の記録を残していたんですが、10 年ほど経って実家の母親に聞いたら捨てられてました(笑)。残念ですね。当時の自分が北海道をどう感じていたか、読み返してみたかったなあ。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
街道をゆく15 北海道の諸道 司馬遼太郎 朝日新聞出版 著者の代表作のひとつである『街道をゆく』シリーズの1冊。松前、江差、札幌など幕末から明治初期の歴史に関わる場所が中心。著者の知識の広さ・深さには感服。しかも全国を旅して書いているのだから……。
佐藤 | 同じシリーズにオホーツク街道を取り上げたものもありますが、こちらは函館の高田屋嘉兵衛やニコライ神父、『胡蝶の夢』の主人公のひとりである関寛斎など、北海道の歴史を語るうえで欠かせない人物たちの足跡をたどったもの。史料としての価値も超一級だと思います。 次の《魚料理》の紹介にも通じますが、旅をさらに充実させるには食ネタだけでなく、訪れる土地の歴史に関する予習・復習も大切です。そこに立ったときの感慨が二倍三倍に膨らみます。 |
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好きな地域はオセアニア。「ニュージーランドで1冊本を書いたこともあります」
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
海の祭礼 吉村昭 文藝春秋 日本人に初めて英語を教えたアメリカ人、ラナルド・マクドナルドを描いた歴史小説。焼尻島を訪れた際にこの人のことを知って興味をもち、本が出ていることを後で知ってすぐに読んだ。「旅先の土地について掘り下げる」楽しさをあらためて思い知った1冊でもある。
書店ナビ | ラナルド・マクドナルド、初めて耳にします。 |
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佐藤 | 私も焼尻島で観光パンフレットを読むまでは知りませんでした。本書によるとマクドナルドは先住民族の血を引いた捕鯨船の乗組員で、氏から英語を習った日本人の森山栄之助はのちにペリーの通訳を務めるなど日本の外交に貢献したそうです。 鎖国時代の日本にマクドナルドが初めて上陸した地は焼尻島でしたが、無人島だと思い2日後には利尻島に向かいます。 これを伝えるトーテムポール風の史跡が焼尻島にあります。あるんですが、観光パンフでわずか数行程度で紹介するだけにとどめていては、実にもったいない。私に書かせてくれたら数ページにもなりそうです(笑)。 |
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
菜の花の沖 司馬遼太郎 文藝春秋 淡路島の貧しい家に生まれた高田屋嘉兵衛が船乗りとなり、やがては北前船主として大商人になる話。ストーリーの展開が痛快、歴史の教科書でもある。
佐藤 | 文庫で全6巻ですが今でも部分部分を読み直し、読む度に新たな発見がある名著だと思います。 北前船主といえば、いまの大企業の経営者のようなもの。船乗りとして知恵と勇気を持ちあわせ、大成したのちにロシアとの外交交渉にも手腕を発揮した高田屋嘉兵衛。企業人の現場視点と大局を見据える視点、両方を楽しむことができます。 |
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書店ナビ | 司馬遼ファンの間でも人気が高い作品ですね。 |
佐藤 | なんといっても主人公の器の大きさがいい。人間味あふれるところに皆さんが惹かれるんだと思います。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
北海道の旅 更科源蔵 新潮社 昭和35年初版の古い本。詩人・文筆家・アイヌ文化研究者として知られた著者による北海道紀行。道内のほぼ全域を網羅して、観光地となる前の北海道の姿を知るうえで興味深い。
書店ナビ | 佐藤さんがお持ちのものは1960年に出版された社会思想社・現代教養文庫版ですが、1979年に新潮社が内容に手を入れて復刊しています。 | 佐藤 | 観光ガイドブックとしてはもう半世紀以上前の古書になりますが、当時の北海道の様子が細かく書かれていて面白い。 "小樽は庶民のまちであけっぴろげ"だとか"北海道のひとは愛想がない"とか、今も変わっていないところとすっかり変わったところ、どちらにも驚かされます。 同名の本で、串田孫一の著作もあり、これも捨て難くておすすめです。 |
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ごちそうさまトーク読む ガイドブッックで物語を伝えたい
書店ナビ | 誌面を通して国内外の地域を紹介してきた佐藤さんが理想とするガイドブックとは、どういうものですか。 |
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佐藤 | いま国内で流通しているガイドブックの大半は、断片的な情報ばかりです。文章は短く、見るガイドブック。ところが、海外では逆なんです。テキストが主役の読むガイドブック。ストーリーがいっぱい詰まっています。 |
欧米のバックパッカーに絶大な人気がある『Lonely Planet』のニュージーランド本では、巻末の協力クレジットに佐藤さんの名前が載っている。
佐藤 | 私もできることならば、その土地特有の物語を掘りおこして"知られざる小樽"のような記事を、皆さんにお届けしていきたいです。 |
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書店ナビ | タイムマシン感覚で北海道史を追体験できる北海道本フルコース、ごちそうさまでした! |