5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.45 ぶらんとマガジン社 販売部 課長 古村 昭彦さん
通常は書店営業だが、ときおり趣味のカメラの腕前を活かして撮影にも駆り出される古村さん。
[本日のフルコース]パパのお勤め先は出版社! 「うちで何度も読み聞かせした傑作絵本」フルコース
[2016.4.18]
書店ナビ | 北海道の人気情報誌『HO』や地域密着型病院ガイド『ホームドクター』を出版しているぶらんとマガジン社さんから、販売部の古村さんにご協力いただきました。 上から11歳の男の子、8歳の男の子、5歳の女の子という3人の子どもたちのよきパパである古村さんが選んだテーマは、「読み聞かせの絵本」です。 |
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古村 | わが家にはおそらく200~300冊くらいの絵本があり、そのなかでも「この5冊があれば大丈夫」と思うものを持ってきました。 子どもたちが欲しがるものを一から十まで買い与えるわけにはいきませんが、「絵本がほしい」といわれたときはできるだけ、その望みを叶えたい。シリーズものは図書館を活用したりして、たくさんの絵本に触れながら成長していってほしいと願っています。 |
パパのお勤め先は出版社! 「うちで何度も読み聞かせした傑作絵本」フルコース
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
もこもこもこ 谷川俊太郎 文研出版 ストーリーよりも音で楽しむ絵本。言葉をよく分からないくらいの年齢からでも、なぜか読むと喜ばれる不思議な一冊。初めての絵本にぴったり。読み手のセンスが問われます。
書店ナビ | 詩人の谷川俊太郎さんが好む「しーん、もこもこ、にょきにょき」というやさしいオノマトペに、絵本作家の元永定正(もとなが・さだまさ)さんがこれまたシンプルな色と形で応えた名作絵本です。 |
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古村 | ことばがやさしいので、どう読んでも子どもたちにウケがいい(笑)。 「もこもこ」がどんどんふくらんではじける場面には、実はことばが書かれていないんですよね。そこにどんな擬音をあてはめるかは、読み手の親次第。ちなみにうちでは「ぷしゅー」です。 |
古村家の『もこもこもこ』には、はじにかわいらしいシールが貼られていた。これも含めて「わが家の絵本」になっている。
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
はらぺこあおむし エリック・カール 偕成社 本に色々な細工がしてある仕掛け絵本の定番。ちょっと長いけどリズミカルな文章と、色鮮やかな絵が調和していて子どもを飽きさせません。CDやかるたなどのグッズもたくさんあり、どこからでも入りやすいところも魅力です。
書店ナビ | 世界中にファンがいる巨匠エリック・カール、やはり古村家でも読まれていましたか。 |
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古村 | うちのおくさんも僕もエリック・カールが大好きで、もう一冊の『パパ、お月さまとって! 』とどちらを出すか、最後まで迷いました。 仕掛け絵本はものによっては開き方が難しくて、小さい子どもはつい破ってしまったり、違う折り方で戻したりするんですが、この『はらぺこあおむし』の仕掛けはどれもやさしい。そこも世界中の子どもたちから愛される理由なのかもしれませんね。 |
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
めっきらもっきらどおんどん 長谷川摂子 福音館書店 妖怪たちとの不思議な体験を通じて、主人公の「かんた」がちょっとだけ成長するお話。話の途中で出てくる不思議な呪文が面白い。
古村 | 《前菜》と《スープ》に選んだ本はかなり小さいお子さん向けでしたが、一般に子どもが魚を食べられるようになるのが3、4歳であることから、この《魚料理》本にも同年齢の子ども向け絵本を持ってきました。 うちの子があるとき突然「ちんぷくまんぷく…」と言い出しまして、それは何だと聞き出したところ、保育園で読んでもらったこの絵本のことだったんです。それでわが家でも1冊買いまして、3人の子どもたちに順繰りに読み聞かせてきました。 |
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書店ナビ | おさない子どもたちの心にしっかり呪文が残るとは、作家さんが聞いたらきっと喜んでくれそうなお話です。 それにしても、最近の妖怪ウォッチシリーズや古くは水木しげるさんの鬼太郎ワールドなど、いつの時代も日本の子どもたちには、どこか不気味で一緒に現実離れしてくれる妖怪のような存在が必要なんだなあと考えさせられました。 |
古村家では毎年クリスマスにも絵本が贈られる。「普段の遊びですか?子どもと一緒にDSとかパズドラもやってます」
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
てぶくろ―ウクライナ民話 エウゲーニー・M・ラチョフ 福音館書店 北海道民にとって親しみのあるてぶくろが、動物たちの住処になってしまう、不思議な絵本。いろんな動物たちが出てきて、楽しめます。
古村 | 元「くすみ書房」の久住さんがなにかの取材のときに「自分の子どもに一番読み聞かせした絵本です」と紹介されているのを聞いて、すぐに買いました。 普通は「こんなに大勢の動物があんなに小さい手袋の中に入るわけがないだろう」と思うでしょうが、そこは何でもありの絵本の世界。 それに子どもって、てぶくろとかよく片方落としますよね。もしかしたら、見つかるまでの間に「こんなことが起きていたのかもしれない」と想像させてくれるところも気に入っています。 ちょっと長めの話なので読むほうは大変ですが、子どもたちが何度も「読んで」と持ってくるので親としてはあとには引けません(笑)。 |
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書店ナビ | 手袋、雪…と道産子におなじみの舞台がいっそう関心を引き立ててくれますね。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
みんなともだち 中川ひろたか 童心社 全部で12冊ある「ピーマン村シリーズ」の1冊。保育園や幼稚園を卒園するくらいに読むと、じーんとなります。最後に歌の楽譜が付いていて、卒園ソングとして聞いたことがある方もいるのでは?
書店ナビ | 作・中川ひろたか&絵・村上 康成が送る「ピーマン村シリーズ」。「おとまりのひ」や「えんそくバス」「おばけなんてこわくない」など、子どもたちの成長をストレートに綴る内容に、親ごさんたちのほうが目頭を熱くするシリーズだと評判です。 |
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古村 | そうなんです。僕も次男の卒園式に「みんなともだち」を歌っているのをはじめて聞いて、じーんときました。読み聞かせをしていても、子どもの具体的なエピソードが頭に浮かんでくる、思い入れが深いシリーズです。 |
ごちそうさまトーク 自宅でも家族アルバムを発行
書店ナビ | ぶらんとマガジン社さんの看板雑誌『HO』は、「麺喰らう旅」や「こんな専門店どうでしょう」など、いつも特集がユニークですね。 |
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古村 | 編集長を含め6人の編集部が一番時間をかけているのが、制作に入る前のネタ集めです。「HO」の売りであるマニアックさをどれだけ出せるかは、このネタ集めにかかっています。紙媒体ならではの深い絞り込みで、読者の皆さんの心をつかんでいきたいです。 |
書店ナビ | 紙媒体といえば、古村家の家族アルバムはご長男が生まれたときからずっと、古村さん撮影・編集のフォトブックをWEBのサービスを使ってつくっていらっしゃるとか。古村さん、会社だけでなくご自宅でも"発行"を楽しんでますね。 |
作るたびに両方の実家にも贈り、孫の成長を振り返ってもらっている。
古村 | 自分が出版の仕事をしているというのもありますが、やはり基本は本好きですので、子どもたちに日頃から紙媒体や本に触わる習慣、あるいは本屋に買いに行くという習慣をなくさないでほしいなと思っています。 |
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書店ナビ | 本を愛する出版人のおとうさんがつくってくれた読み聞かせ絵本のフルコース、ごちそうさまでした! |