Vol.159 株式会社まんだらけ 札幌店 海馬担当 佐藤 邦彦さん
「洋楽好きなので、まんだらけの面接では音楽セラピーと精神世界を結びつけてなんとかその場を乗り切りました(笑)」
[本日のフルコース]
まんだらけ札幌店の「海馬」担当者が語る
初心者も入りやすい精神世界の本フルコース
[2019.7.8]
書店ナビ:あまりにもマニアックな選書が毎回楽しみすぎて、まんだらけ札幌店さんにお願いするフルコースは、かつての自分と同じように精神世界の知識ゼロのお客様に。
第345回 株式会社まんだらけ 札幌店 ヴィンテージ 海馬担当 岩城 理恵さん
書店ナビ:はじめに佐藤さんがまんだらけに入るまでの道のりを教えてください。
佐藤:大学を出たあと、フラフラしていた時期がありまして。カナダでの語学留学から札幌に帰ってきてから30歳になるまで古書店で働きました。
当時、まんだらけ札幌店はノルベサビルに移転したばかりで、自分は客の一人でした。あるとき店頭で見かけた「精神世界探求者、募集!」という正社員募集のチラシが妙に心に残って、思わず履歴書を出してしまいました(笑)。
書店ナビ:よく応募しましたね(笑)。
佐藤:面接してくれた大井店長からも「あの貼り紙で応募してきたのは後にも先にも佐藤くんだけだよ」と言われました。
その後試用期間を経て東京の中野店でも2年半近く働き、現在にいたります。
書店ナビ:前回ご登場いただいた岩城さんと佐藤さんは「海馬(かいば)」のご担当。
辞書上の定義では「大脳皮質側頭葉の奥深くにある大脳古皮質の一領域」であり、「本能的な行動や記憶に関与する」と説明されていますが、まんだらけさんで言う「海馬」とは、精神世界やサブカル、神話などを扱う幅広いジャンルをさすんですね。ちょっとディープな印象が…。
佐藤:ですよね。「海馬」に関しては、まんだらけの中野店に僕が足元にも及ばない師匠がいますし、こういうジャンルに関心を持たれるお客様のほうが遥かに知識をお持ちで、勉強させていただくことばかりです。
今もまだ勉強中の身なんですが、かつての自分と同じように海馬の知識ゼロのお客様に勧めるとしたら、という切り口でこのフルコースを考えてみました。
[本日のフルコース]
まんだらけ札幌店の「海馬」担当者が語る
初心者も入りやすい精神世界の本フルコース
前菜 未知なる世界の入口はUMA《日本のアイドル》ツチノコから
- 逃げろツチノコ
山本素石 二見書房 - 昭和40年代から始まったツチノコブームを巻き起こした1冊。釣り研究家である著者が山で"太くて短くて飛び跳ねるでかいヘビ"に出会ったところから全てが始まる。日本各地で繰り広げるツチノコ探索を面白おかしく記録しています。
書店ナビ:補足しますと、ツチノコとは日本に生息するといわれる未確認動物(UMA=Unidentify Mysterious Animal)の一種。
山本さんはこれに魅せられて同好の志を集め、「ノータリンクラブ」を結成。「ツチノコあり」と言われた各地を訪れ、期待に胸を膨らませます。
佐藤:「ノータリンクラブ」には面白い会員規則があって、家庭より山河を愛するとか、一度入ったら抜けられないとか(笑)。
山本さんたちの活動を面白がった田辺聖子さんが彼らをモデルにして、長編小説『すべってころんで』を書いています。
書店ナビ:こういうUMAも精神世界本のジャンルに入るのが意外でした。
佐藤:なんでも科学で実証できる時代にツチノコのような実証できないものを探求する。この面白さが人を惹き付けるんだと思います。
山本さんたちも有力情報があるたびに毎回現場に出向くんですが、ツチノコを見たい気持ちの一方で「見つけないでくれ」とか「(見つけても)そっと逃がしてほしい」とも内心、願っている。
この"いるかもしれないし、いないかもしれない"ロマンがたまらなく楽しいんですよね。
本の見返しには「日本のアイドル」ツチノコの似姿も掲載されている。「僕がまんだらけに興味を持ったきっかけは、後の師匠となる方が作った『ツチノコ100万で買います』のポスターでした」
スープ メインに備えて体調をしっかり整えるための本
- 整体入門
野口晴哉 筑摩書房 - 著者は「整体」という言葉の提唱者とも言われる「野口整体」の指導者。人間が本来持っている力を引き出すことを基礎とし、体を整える「活元運動」や「整体体操」が写真とともにわかりやすく解説されています。
佐藤:西洋に軸足を置く現代医療は投薬や手術など対処療法がメインですが、野口整体では「健康というものは自分で産んでいかなくてはならない。(中略)自分で運動を調節して自分で作っていく」という身体に元から備わっている自然治癒力を引き出し、回復させようとする考え方が軸になっています。
本書には、私たちがもっている体の癖を十二種類に分類した「体癖(たいへき)」とそれに応じた「整体体操」が載っています。
一種から十二種までの「体癖」と、上下型や左右型、前後型などの体型を組み合わせて解説。和室にワイシャツ姿が1968年初版の時代を感じさせる。
書店ナビ:ご自分でも試してみましたか?
佐藤:ええ、この本によると僕は、行動に理論や順序がなく気持ち任せで動いてしまう「七種体癖」。整体体操をやり始めてから風邪を引かなくなりました。まんだらけに入社以来、無遅刻無欠勤が自慢です。
魚料理 希望に満ちたスピリチュアルの世界へご一緒に!
- 22を超えてゆけ CD付 宇宙図書館をめぐる大冒険
辻麻里子 ナチュラルスピリット - 主人公のマヤが「宇宙図書館」にアクセスし、さまざまな教えを受けて「太陽の国」を目指す。本のタイトルの「22を…」とは、どういう意味なのか。小説形式で綴られる、基礎知識が満載のスピリチュアル探求の書。
書店ナビ:すみません、普段この手の本を手に取らないので、上の解説を読んでもちょっと途方にくれてしまうというか…。
佐藤:わかります(笑)。僕もまんだらけに入るまでは知識ゼロでしたから。
この本は、著者の辻さんが臨死体験を通じて得た知識を小説仕立てで書いたもの。
「アカシックリーディング」や「アセンション」といった専門用語や集合意識、タイムトラベルなどスピチリュアル世界を理解するための基礎知識が各所に散りばめられています。
精神世界の本というと身構えてしまう方が多いと思いますが、だからこそ担当者の自分としては読み手の方の気分やレベルにあう1冊との出会いをおすすめしたい。
その点、この本はすいすいと読めますし、書いてあることが自然と頭に入ってくる。「スピリチュアル世界ってどんなものなのかな?」と興味を持ってくださった方に、試しに読んでもらいたいですね。
肉料理 精神世界の探求をDEEPなレベルに進める必読書
- 廃墟のブッダたち 銀河の果ての原始経典
無名庵EO まんだらけ出版部 - 著者は、精神世界の裏側でカリスマ的な支持を集めている「異端の覚者」無名庵EO(むみょうあん エオ)氏。2019年から当社の出版部ではEO氏の著作の復刻に取り組み、本書は5月に出た第一弾、初期の法話集です。
書店ナビ:まんだらけの創業者、古川益三社長は1980年に中野ブロードウェイ2階に「まんだらけ」を開店した当時から精神世界に強い関心をお持ちで、「虚空蔵55」というペンネームで「みわ」氏との共著「宇宙全史」シリーズも出版されています。
そして今年、御社として猛烈に推しているのが本書だと。
佐藤:《魚料理》の本が癒しやヒーリングにも通じる、明るく希望に満ちたスピリチュアル本だとしたら、この《肉料理》は光に対峙する闇のようなもの。
当社のサイトにある解説を引用しますと、
「本書はかつて誰も語らなかった地球人類の歴史、宇宙史全体の内幕を解説する。
ただし、これはSFではない。
全宇宙を管理する統率システムがファシズムのごときものであり、全生命体は宇宙の単なる実験生物、家畜、穀物であるというこの事実の中で、我々がどう生きて死ねるのかを真剣に問う。カルトが蒼ざめたEOの初期法話集。」
人類が苦痛、飢え、混乱、不幸、葛藤から生まれる生への執着や自己承認欲求を満たすために行動する際発生する生存意思のエネルギーを宇宙が吸収するためだけ存在であり、科学、医療など文明の発展はそれらを満たしエネルギーを人工的に生産するために組み込まれたシステムである。そこから脱却するためには精神の完全なる「死」に至らなければならない。
…僕も一度読んだだけで全てを理解しているわけではないです。精神世界の書籍は読む人の理解度を選ぶ書籍が多々あります。ただ読み始めてみると、増え続けた人類の調整のために戦争や疫病があるというくだりでは『アベンジャーズ/エンドゲーム』を彷彿とさせますし、読み方によっては「まどマギ」っぽいところも見つけられて実は身近なコンテンツにも類似点があって理解が進むという発見もあります。後半にはE/Oが提唱する完全なる「死」に至るための死人禅行法の説明も掲載されています。
こってりとした内容ですが、精神世界を探求する道のりで避けては通れない一面を知ることができる学びの書です。
まんだらけ札幌店でも『宇宙全史』と並べて販売中。
デザート 「あった、あった」を共有する楽しさを余韻に
- 日本現代怪異事典
朝里樹 笠間書院 - 元は同人誌として発売されていました。戦後から現代までの都市伝説や怪異現象、ネットロアをまとめた1冊。こっくりさんや口避け女、トイレの花子さんたちが五十音順に掲載された全500ページ!この情報量はすごい!
佐藤:ちょっと難しい話が続いたので最後は楽しい系で。この本はきっと読む世代によって引っかかる項目が違うはずですし、逆にどこから読んでも「そんな怪談あったんだ?」と楽しめます。もちろん、ツチノコも載っています。
著者の朝里さんは北海道出身。大学時代に日本文学を専攻し、公務員として働くかたわら在野でこの分野の情報収集および研究を続けておられるようです。
地方による名称違いや関連項目まできちんとガイドされている精確性も二重マル。この1冊があれば、恐る恐る友達と共有したあの頃の思い出話が止まらなくなること間違いありません。
「今30代の方ならわかるでしょうか、『八〇キロばあちゃん』。一〇〇キロ、一二〇キロなどのバリエーションも記載されています」
ごちそうさまトーク 読んだ人生のほうがより豊かになると信じて
書店ナビ:UMAから整体、宇宙図書館、覚者の書、怪異辞典と幅広い精神世界の本をご紹介いただきました。
佐藤:僕自身、担当者として未だ道半ばで、これからもたくさんの関連本を読んでいかなきゃならないと自覚しています。
こういう本はもちろん「読まなくても生きていける」という考え方もありますし、実際のところ自分も30年近く読まずに生きてきたんですが、読むことによって周囲や環境に対する見方が変わり、人生がより豊かになることが少しずつわかってきました。
生きていくためにかたわらに置くもののひとつとして、精神世界の本に関心を持っていただけたらうれしいです。
書店ナビ:佐藤さんのまじめなお人柄が伝わってくる丁寧な解説、ありがとうございました。毎回変化球で楽しませてくれるまんだらけ札幌店さんから三回目のフルコース、ごちそうさまでした!
佐藤邦彦(さとう・くにひこ)さん
札幌出身。札幌学院大学経済学部卒業後、カナダでの語学留学やフリーター生活を経てブックオフに勤務。30歳でまんだらけ札幌店に入社し、2019年で勤務6年目。海馬担当。