Vol.197 Twitterで見つけた若き読書家 「本読むリス。」さん
Twitterアカウント「本読むリス。」さんご本人提供の自宅の本棚画像。新潮文庫の三島由紀夫全作を読破した。
[本日のフルコース]
目標は20代で100万円分読む!Twitterで読書記録を更新中
本読むリス。さんの「とにかく薦めたい!」小説本フルコース
[2020.12.14]
書店ナビ:コロナ禍でオンライン取材を覚えてから、SNS上でも取材先を見つけるようになった「本のフルコース」企画。
今回は2021年10月某日、Twitterのタイムラインに流れてきた「ようやく新潮文庫の三島由紀夫を読破した」のつぶやきに目が釘付けに。
しかもトップの固定ツイートには「もう20歳にもなるし、試しに20代の内に100万円分ぐらい本を読んでみようと思う。自己投資の意味も兼ねて」とある。
もう20歳にもなるし、試しに20代の内に100万円分ぐらい本を読んでみようと思う。自己投資の意味も兼ねて。
本読むリス。 (@ey18vV3m9ouPDQP) 2019年5月14日
書店ナビ:つぶやきの日付を見ると、2019年5月14日。ということは、ご本人は今も20代。学生さんのようです。
本を読み終わるたびに感想と冊数カウントを投稿し、途中から「593冊目。520円。トータル386886円」と記録要素も増えている!
これはフルコースを作ってもらったら面白そう…というわけで取材を申し込みました。
ご本人の希望どおり顔を出さず&アカウント名でご登場いただきます。本州在住の「本読むリス。」さん、よろしくお願いします!
本を読むリス。
(以下リスさん):よろしくお願いします。
書店ナビ:早速ですが、読書が習慣になったのは最近ですか?
リスさん:中学を卒業後5年制の高専に入ったんですが、そこでは学校行事で年に一度、学科対抗の演劇企画があるんです。みんなで役割分担をして、小一時間ほどの演劇を作ることになっていて、自分は高専3年の時から脚本を担当していました。
書くとなると自分の中に言葉のストックを増やしたほうがいいなと思って本屋さんに行き、手に取ったのが当時平積みになっていたこの本です。
- 蜜蜂と遠雷
恩田陸 幻冬舎 - 第156回直木賞&2017年本屋大賞W受賞。俺はまだ、神に愛されているだろうか?ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!
リスさん:主人公たちが弾くピアノ曲を自分は全然知らないんですけど、恩田さんの文章からはその音が聞こえてくる感覚があって。「なんだ、これは!」と感動して、そこからいろんな本を読み始めて読書にハマっていきました。
なので『蜜蜂と遠雷』は自分を読書の世界に導いてくれた一冊です。
書店ナビ:リスさんのタイムラインを見てみると、2022年1月末の投稿時点で「『黒牢城』米澤穂信 640冊目。1600円。トータル417824円」。もうすぐ、50万円の折り返しが見えてきましたね。
そもそも、この投稿はどうして始めたんですか?
リスさん:単純に記録用に始めました。このページがあれば、本を買ってもいい口実になる(笑)。
フォロワーさんのおすすめ本を参考にしながら、気になったものをどんどん読んでいる最中です。
フルコースを、と言われて、まず本棚を眺めながら自分が特によかったと思う本をピックアップしました。3、4冊はすぐに決まって、最後のデザート本でちょっと悩んだという感じです。
[本日のフルコース]
目標は20代で100万円分読む!Twitterで読書記録を更新中
本読むリス。さんの「とにかく薦めたい!」小説本フルコース
前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書
- こちらあみ子
今村夏子 筑摩書房 - 第161回芥川賞受賞作の『むらさきのスカートの女』で知られる作者のデビュー作。今作で第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞もW受賞。今村さんの文章はどれも難しい言葉を使うわけではなく、どちらかといえば平易な印象だが、驚くほどまでに読み手の感情を底から揺さぶってくる。その中でもこの本は別格です。
リスさん:主人公のあみ子はどこまでも純粋で、その純粋さゆえに相手の気持ちを害したり、時には傷つけ傷つけられてしまうんです。それがすごく読んでいて辛いんですけど、どこかでその純粋さに憧れる。
書店ナビ:日本人が得意とする「空気を読む」の真逆ですね、あみ子。
リスさん:読まないんです、この人は。でも今村さんのわかりやすい文章を読んでいると、あみ子の気持ちもわかるし、最後にある行動に出ちゃう男の子の気持ちもよくわかる。
「どうしたらいいのよ」と頭の中がぐちゃぐちゃになって、最初に読み終わったときはしばらくボーッとしちゃった記憶があります。
でもそれが決して不快じゃなくて、こちらの感情をガンガン揺り動かされるのがすごくいい。小説としても面白いですし、好きな作家さんの一人なのでトップバッターにもってきました。
「好きな作家さんにはちゃんと本が売れて次の作品を書けるようになってほしいから、皆さんにもぜひ読んでもらいたいです!」
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
- かか
宇佐見りん 河出書房新社 - 『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞した宇佐美さんのデビュー作。第56回文藝賞と第33回三島由紀夫賞も受賞した。宇佐見さんの文章は「痛み」がどこまでも生々しく、質量を持って書かれていて、読み手にもダイレクトに伝わってくる。
書店ナビ:本作で三島由紀夫賞を史上最年少の21歳で受賞した宇佐美さんは1999年生まれ。リスさんと同じ年ですね。
リスさん:『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞したときは「自分と同じ年の人が?」とビックリしました。それで『かか』も読みたくなって、手に取ったらクラってしまった。
『かか』は母(かか)と娘の物語で、語り手である娘のうーちゃんが弟のみっくんに語りかける設定です。終始「かか弁」という独特の方言で描かれていて、すぐに物語の中に吸い込まれます。
途中「かかを産みたかった。かかをにんしんしたかったんよ」という文章が出てきて、そんな文章は他に読んだことがない。
『あみ子』のようにこの本も読んでいて辛いんですが、娘が抱えるその切実な痛みにはちゃんと肉がついて血が通っている。
それに弟に向かって"おまい"と話しかける口調が、だんだん読者である自分に話しかけられているような気がして、文章と自分の距離がとても近い。しんどいんですが「読んでよかった」と思える一冊です。
本は基本、紙が好きだがバス待ちや通学用にスマホにも電子書籍を数冊入れている。「棚に並べたときの勝手な達成感」が好きで手放すことはしないそう。「読み返すこともありますし」
書店ナビ:しんどいけれど読んでしまう…そのちょっと中毒的な感覚は、著者の宇佐美さんとリスさんが同世代で共鳴しやすい、ということも関係しているでしょうか。
リスさん:そう言われて今思い出したのは、宇佐美さんは『推し、燃ゆ』でもこの本でもSNSの世界はあったかい、という描き方をしているんです。
普通SNSって怖くて冷たいイメージで語られることが多いと思うんですが、でもそれを「あったかい」と書くことに新鮮さを感じるし、「そうだよな」と納得できる部分もある。
今の時代を若者として生きている人の本を、20代の自分が今読むことにも意味があるように思います。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
- チョコレートコスモス
恩田陸 KADOKAWA - 伝説の映画プロデューサーが開催する大規模な演劇オーディションに突如現れた天才少女が、圧倒的な力で駆けあがっていく!恩田陸さんの描く天才は「最高」と言うほかない。面白すぎて、夜更かししてまで読み切ったのを覚えている。疾走するような500ページだった。
リスさん:冒頭でお話しした『蜜蜂と遠雷』以降、恩田さんの小説を読みまくりました。その中でもこの本がとにかく小説として面白い!
文中の一次オーディションでは登場人物が三人出てくる脚本の設定を、二人の役者で演じるというお題が出ていて、それをこの主人公はどうにかしちゃうんです。
天才主人公が周囲を圧倒していく姿はまるで少年マンガのように清々しくて。読者が苦手な人にもきっと楽しんでもらえると思うので《魚料理》にしました。
書店ナビ:本作は演劇が題材になっていますが、学校の恒例行事の演劇でオリジナルの脚本を書いていたリスさん。ご自分で手応えを感じた作品もありましたか?
リスさん:高専の5年間が終わると、希望者にはさらに専攻科という2年制のコースがあって、自分は今、専攻科の最終年。大学でいうと大学4年生にあたります。
脚本は大学2年まで担当し、最後は脚本賞をいただきましたが、本当に手応えがあったと思えたのはその前の年(笑)。でもその年は脚本賞を取れなくてかなり落ち込んだので、最後にとり返せてよかったです。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
- 金閣寺
三島由紀夫 新潮社 - ここまで美しい小説を読んだことが無い。金閣寺を放火するまでに至った若い学僧の狂おしいまでの美への執着が、金閣寺を媒介としてどこまでも華美な文章で描かれる。去年か一昨年に初めてこの小説を読んでから、もう10回ほど読んでいる。おそらく死ぬまでに100回は読み返す。そう決めている。
書店ナビ:リスさんを知ったのも、この三島関連の投稿でした。
リスさん:Twitterにはすごく本を読んでいる人たちがいっぱいいて、確かそのうちの一人のアカウントがきっかけで三島由紀夫に興味がわきました。
読んだのはちょうどコロナになり、家にいる時間が長かったころ。「こんな世界があったんだ!」と衝撃の一言でした。
文中に「この世界を変貌させるのは認識だ」という台詞があって、それに対して主人公の溝口は「世界を変貌させるのは行為なんだ」と言い返します。
自分は今のところ〈認識派〉なんですが、何回も読み返すことで溝口が言う〈行為〉、その行動の意味も少しずつわかってくるような気がします。
とても有名な最後の1行は、自分はそれほど大きな違和感を感じていなくて。クライマックスの行為を起こしたあとの溝口の世界は、絶対大きな変化がありましたよね。
それであの1行が…いや、でもこの小説を完全に理解したと言えるにはまだまだ遠い。繰り返し読むことで、近づけるところまで近づきたいと思っています。
「一番好きな作家」三島の棚。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
- 動物農場
ジョージ・オーウェル 早川書房 - 世界的なディストピア小説『1984年』の作者が書いたもう一つの傑作。動物たちが農場主の人間を追い出すところから物語は始まる。リーダー格の豚を中心に自分たちの楽園を作り始める動物たち。だが次第に豚たちは暴虐なふるまいを見せ始める…。
リスさん:授業でイギリスの小説を紹介するという課題が出て、先に『1984年』を読んでいたオーウェルの中から読みやすい中編の本作を選びました。
最初に読んだときは、これが当時のスターリン体制や全体主義を風刺している、という裏設定を全然知らなくて。
単純に「動物たち、どうなるんだろう」と物語自体を楽しみましたが、解説を読んで「そうだったのか!」となって、もう一度読んでもまた面白かったです。
書店ナビ:はっきりとキャラクターづけされた動物たちがたくさん登場しますが、一番誰に感情移入しましたか?
リスさん:リーダー格の豚が言うことを疑いもせずに信じちゃう動物たちが健気だと思う反面、「うまく丸めこまれてる…」とかわいそうになったりしました。オチもパンチがきいていて、本当によくできた話だなと感心します。
授業ではパワポで資料を作って紹介しましたが、みんなそれほど真剣に聞いてなかったと思います(笑)。いきなり「海外文学を紹介して」と言われても、ちょっとハードルが高いですよね。
ごちそうさまトーク 本がなくなったら困ります
書店ナビ:フルコースを振り返ってみて、いかがですか?
リスさん:実はもうすぐ学生生活が終わる自分にとって、今は本が逃げ道になっているようなところもあって。でもやっぱり自分は、小説が一番好きなんだなと改めて感じました。
きっとこの先しんどいことがあっても物語の中に入っていけるのなら大丈夫。読めば読むほど面白い作品や作家とも出会えるので、どんどん沼にハマっている状態です。本がなくなったら困ります(笑)。
村上春樹も読んでいる。特に好きな一冊は『ノルウェイの森』。
書店ナビ:春からは住まいも変わるそうで、本はどうされるんですか?
リスさん:どうしても連れていきたいものを選んで持っていくことになると思います。今日紹介した本はどれも持っていきます!
書店ナビ:まだまだ続く20代、きっと最後には目標額100万円分以上のものを吸収できそうですね。いつか、北海道にも遊びにいらしてください。
若き読書家「本読むリス。」さんを支える小説本フルコース、ごちそうさまでした!
本読むリス。 (@ey18vV3m9ouPDQP) | Twitter
2019年から読書記録用のアカウントをスタート。マンガも紙で読みたい派。『ワンピース』と『宇宙兄弟』は新刊が出るたびに買い揃える。「今はDr.STONEが面白いです!」