札幌の取次会社コア・アソシエイツが運営する本サイトは2010年10月にオープンし、現在13年目に突入しています。
これからも書店・出版社の皆様をはじめ、本に心を寄せる方々に「知ってよかった」と思っていただける情報を発信してまいります。引き続き、ご支援・ご厚情を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
年をまたぐ今回の更新は、2022年の話題をピックアップ!(2023年は1月9日月曜から更新をスタートします)
2022年1月に"帰って"きた「まちライブラリー@ちとせ」
千歳市コラボで「防災本」フルコースもインタビュー!
全国に900カ所近くある民間図書館「まちライブラリー」の中でも、市民の声によって復活が実現したライブラリーはここだけのようだ。
JR千歳駅前の「まちライブラリー@ちとせ」が、2021年3月の閉館から1年を待たずして新たな立地で "帰って"きた。
街中の商業施設に入っていた時のスポンサー企業が、コロナ禍で事業撤退を表明したのは2021年3月のことだった。
飲食自由で会話もできる民間ならではの図書館環境は、利用者にとって貴重なサードプレイス。地元の中高生たちにも重宝されており(書店ナビが取材に行くといつも勉強している制服姿を見かけた)、千歳市民有志の間で「まちライブラリーを復活してほしい」という活動が盛り上がったのも、ごく自然な流れだったに違いない。
2200名を超える署名が市に提出され、それに応える形で今度は千歳市がスポンサーに。現場の運営は一般社団法人まちライブラリーに業務委託されて、今日を迎えている。
駅前のアクセスが便利なまちライブラリー@ちとせ。場所を利用するのに会員登録は必要ないが、本の貸出・イベント実施・wifi利用等は会員登録が必要(カード作成の実費500円がかかる)。貸出は一人3冊までで、期間は2週間。千歳市民でなくても会員になれる。
さらに2022年9月2日からは3日間連続で、市とまちライブラリーの共催イベント「ちとせまちライブラリーブックフェスタ 2022」を実施。
「札幌といえば雪まつりがあるように、千歳市を本のまちとして打ち出したい」という構想のもと、グリーンベルトを使った本のフリーマーケットや「本の巣箱」と名付けて一般公募した本棚グランプリが開催された。
その輪に北海道書店ナビも加わり、9月の第一週が防災週間であることから、千歳市総務部危機管理課の髙橋裕輔課長による「防災本のフルコース」を取材した。
「モシモ」の準備を「イツモ」の日常に変えてくれるマニュアル本から日本のSF小説の金字塔まで、ためになる5タイトルを紹介していただいた。
浦河、室蘭、白老、十勝エリアで
〈推して推される〉北海道の小さな本屋さん
2022年もたくさんの本関係者にお話をうかがったが、特に印象に残っているマイクロ書店4店舗は、ぜひ皆さんにも知っていただきたい。
店構えの規模・形態、営業日数や選書分野もオーナー次第。今の時代にあった手法で展開する姿が清々しい。
例えば、浦河町にある六畳書房。2022年4月、店主の武藤あかりさんに「3代目六畳書房」の看板をあげるまでのお話をうかがった。
第548回 3代目六畳書房 - 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ
祖父が趣味の部屋にしていたプレハブで店舗を営むあかりさん。子育てや家業もある多忙な身で現在、店は不定期営業だが、本の注文は常時受付中。無書店自治体の浦河町で唯一の本屋さんとしての役割を担っている。
実店舗と並行してBASEのネットショップも作り、有料動画プラットフォーム「シラス」のチャンネル「六畳書房の田舎でワンダー売ります。」も発信中。お客様とさまざまな方法で繋がる努力を重ね、動画をきっかけに道外から店を訪れてくれた視聴者もいたという。
だが初めての書店経営はやはり難しい。2022年12月19日、あかりさんはInstagramで経営的な苦境を告白。同時に限定50名の選書サービス(料金は7500円で、1月と6月の2回に渡って発送される)を始めたところ、店の存続を願う支援者たちから続々と申込みが来ているという。
ご本人に聞いてみたところ、もし定員の50名に達しても、もう少し枠を増やす余力も出てきたそうだ。新年の自分にプレゼントするつもりで申し込むのはどうだろう(あかりさんが用意した簡単なアンケートに答えていくのも面白かった)。
選書サービスの申込み締め切りは12月31日まで(InstaプロフィールのリンクからもBASEショップに飛べる)。
浦河町から車で1時間強の大樹町には、地域おこし協力隊として移住してきた長谷川彩さんが2021年から移動書店「月のうらがわ書店」を開業中。
2022年も愛車に本を乗せて、帯広、中札内など十勝エリアの飲食店などに出張していた様子をInstagramで見ることができる。
出店する空間や企画に応じて自在に選書する「月のうらがわ書店」(画像も長谷川さん提供)
車輪付きのオリジナル什器は浦幌町の家具デザイナー鴻野祐さんに作ってもらったもの。
選書実績が豊富な長谷川さんは協力隊としての活動や移動書店の他にも、選書依頼や高校の学習支援員としての勤務等で収益を得ている。
「売上ばかりを追いかけると、〈手に取った人の味方になってくれるような本を届けたい〉という本来の目的を見失いそうな気がして。売上の一部はウクライナ避難者支援や自分が共感する活動に寄附しています。うちで本を買ってくださった方々は私を通してですが、思いがけず誰かを応援することになる。それも本屋としての多様性なのかなと感じています」
月のうらがわ書店地域おこし協力隊で移動本屋さん、という女性がもう一人。2022年6月から白老町に赴任した協力隊の一人、羽地夕夏さんが移動書店「またたび文庫」を開店した。
東京での出版社勤務を経て、町内在住の友人に誘われて白老町にIターンした羽地さんには、2023年1回目の「本のフルコース」取材をお願いした。
羽地さんの日々の活動は、noteで読むことができる。
2022年8月、室蘭にはオフィスを活用した個人書店「KITSUNE BOOKS」が誕生した。オーナーはご夫婦で建築事務所を営む関口聡美さん。
室蘭工業大学で開催されたビブリオバトルに参加し、「本の前では年齢も職業も関係がない」楽しさに魅せられた。
ご夫婦ともに出身地ではない室蘭に「自分たちの居場所」を作る意味も込めて、オフィスを棚で区切り本屋スペースに。第2週・第4週の金土日開店という週末営業で地元の人々を喜ばせている。
店名は古今東西の動物寓話で知恵者の代表格であるキツネと超有名ゲームの軍人キャラクターにちなんで付けた。画像提供KITSUNE BOOKS
週末営業とはいえ、本業を持ちながらの書店経営は決して容易ではないだろうが、「本を通じて会話が弾む喜び」が糧になる。
「本は自由なので私も自由に」という関口さんの言葉が、マイクロ書店のありようそのものを表しているように感じられた。
以上、「六畳書房」(浦河町)、「月のうらがわ書店」(大樹町)、「またたび文庫」(白老町)、「KITSUNE BOOKS」(室蘭市)の4店舗からは、次のような多様性が読み取れる。
- 本屋の世襲経営者ではない
- 他にも収入の道がある「副業」経営
- 形態も開店日数も「自分に負荷をかけすぎない営業スタイル」
- 新刊と古書ミックスの「選書力」
- 物理的な距離を超えた「支援者とのつながり」
「いつ行っても開いている」「話題本がすぐ手に入る」という大型書店の安心感ももちろん魅力だが、そことは一線を画した自分の推し本を置く彼女たちを、友人知人のネットワークや地域のコミュニティが推す。
そんな〈推して推される〉本屋活動が、北海道各地で繰り広げられている。
書店ナビの推し店舗、2022年11月から2年目に突入した札幌・北18条の新刊書店「Seesaw Books」は、店舗2階が住みかを失った人たちのためのシェルターという異色の本屋さんだ。
棚オーナー制度を導入しており、ひと月3850円・3カ月から申し込める。関心のある方は直接店にお問い合わせを。
最初で最後の直木賞作家サイン会で幕
ありがとう札幌弘栄堂書店パセオ西店
2022年9月末で札幌市内の全3店舗を閉店した札幌弘栄堂書店。衝撃の閉店発表から最後の店仕舞いとなったパセオ西店の閉店当日までを追いかけた。
暗くなりがちな雰囲気を盛り上げたのは、北海道出身の直木賞作家・桜木紫乃さんのサイン会。パセオ西店最初で最後のゲストイベントとなった。
その全貌を2022年10月17日更新の記事にまとめている。
元弘栄堂スタッフの坂胤美さんが手がけるシマエナガグッズブランド「トエブック」は現在、紀伊國屋書店札幌本店1階で販売中。
それぞれの道を歩き始めている元書店員の方々にとって新年が優しい年であることを願うばかりである。