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第572回 BOOKニュース 2023年4月編

[BOOKニュース] 「半農半画家」のイマイカツミさんと農都共生を語る 農業ジャーナリスト林美香子さんの新刊発行記念トークレポート  ウイスキーの味わいを油絵で表現するオープンアトリエ探訪 「ノムスル」ZINEもオンラインで好評発売中!   少部数でもハードカバー! 札幌の石田製本が提案する ハイクオリティの製本サービス「CRAFT ZINE」がスタート

【NEWS01】
「半農半画家」のイマイカツミさんと農都共生を語る
農業ジャーナリスト林美香子さんの新刊発行記念トークレポート

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札幌のキャスター・農業ジャーナリストの林美香子さんが2023年2月に上梓した新刊『《農都共生ライフ》がひとを変え、地域を変える』(寿郎社)の出版記念トークイベントが、4月9日に紀伊國屋書店札幌本店で開催された。

《農都共生ライフ》がひとを変え、地域を変える
林美香子編著  寿郎社
コロナ禍で地方での活動が見直されている今、農村への移住やCSA(地域を支える農業)の実際、田舎で稼ぐローカルベンチャーの成功例などを網羅した〈新しい暮らし方〉指南の書。

北海道大学農学部出身、STVアナウンサーの経歴も持つ林さんは北海道の「農」や「食」に関する題材を長らく取材。農村と都市の共生を掲げる「農都共生」をライフワークに著書も多数発行している。

本書では、林さんが慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で受け持った農都共生ラボの教え子である奈良県立大学准教授の村瀬博昭さんも執筆。
まだ日本にはあまりなじみがない「CSA」(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャーの略、地域支援型農業)について詳しく紹介している。

だがなんといっても圧巻は、林・村瀬の両著者が書いた第3章「農都共生の国内外の実践事例」だ。
「農泊」「新規就農」「学生活動」「ICT活用」「温泉宿」「移住・定住」「農村女性の活躍」という今の地域活性に欠かせないテーマが、フランス・イタリア・スペインの事例とともに広く網羅されている。

また、過去の著書にはなかった新たなキーワードに「ウェルビーイング(well-being)」も挙げられる。
世界保健機構(WHO)憲章の前文に登場する「ウェルビーイング」を「健康で安全、幸福なくらし」と位置付け、「自然豊かな心休まる農村風景を背景に、訪れる人も暮らす人も双方の心と体の健やかさを分かち合う」農都共生ライフとの共通点を見出しいていく。

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「コロナ禍で農業や農村の関心が高まり、今こそ農都共生ライフを考えるとき」と呼びかける林さん。

トークの後半では、ゲストが登場。本書の第4章で紹介されている「農業の当事者となりながら、自分らしい表現方法を模索していく(中略)半農半画家」のイマイカツミさんが登壇した。

東京で画業に煮詰まったイマイさんは、農業ヘルパーの求人を見つけて2001年に来道。
富良野の田園地帯に降り立った瞬間、「360度どこを見ても《絵》で、これを描きたいという気持ちが湧いてきた」と語り、それまでの油絵を離れて鉛筆スケッチの原点に立ち返り、そこから20年近くの歳月をかけて現在の水彩画タッチを確立した。
(以前「本のフルコース」にも登場していただいたことがあり、詳しい経歴をうかがっている)

Vol.155 画家 イマイカツミさん[本日のフルコース] 富良野在住の画家イマイカツミさんが語る 「若かりし僕に絵描きになる情熱を与えてくれた本」

www.syoten-navi.com

2人は、イマイさんが本格的に富良野に移住し自分の畑でアスパラを作り始めた頃から、その評判を聞きつけた林さんが援農ボランティアに通う旧知の間柄。
毎月前半は農作業に、後半は画業に専念し、農閑期の冬になればスケッチ旅行に出かけるイマイさんのライフスタイルを、林さんは「まさにウェルビーイングな暮らしの実践」と呼び、共感を寄せている。

イマイさんは今年新たに富良野市の助成を受けてワイン用ブドウの生産を始め、納屋を改装したギャラリー&ワークスペース「FURANO SHEDs(シェッズ)」もオープンした(SHEDは小屋の意味)。
修学旅行生の受け入れや農業体験・農泊も推進しながら「画家と農家両方の視点から田舎の魅力を語っていこうと思います」と述べ、隣の林さんも笑顔で拍手を送っていた。

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今井さんは現在、駅舎を描くシリーズも始め、札幌に足繁く通っている。「都会のことも忘れないで富良野と札幌を行ったり来たりできるのが自分には合っているようです」

この2人のトークは、5月3日(水)の14:00から江別蔦屋書店でも開催される。参加無料・要予約の定員30名。
お申し込みは同書店のこちらまで。

林美香子編著『〈農都共生ライフ〉がひとを変え、地域を変える』出版記念トークショー 〈農都共生〉の実践――富良野の画家イマイカツミさんを迎えて | 江別 蔦屋書店

ebetsu-t.com

【NEWS02】
ウイスキーの味わいを抽象画で表現するオープンアトリエ探訪
「ノムスル」ZINEもオンラインで好評発売中!

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今週はもう一つ、絵とお酒と本に関するとてもユニークなイベントレポートをお届けする。
あるとき、人から「これ、お好きそうじゃないです?」と勧められたDMに「NOMUSURU ノムスル」と書いてあった。
裏面には「自分が飲んだウイスキーの印象を色や形に変換した抽象画を描いています」とある。

この「ウイスキーの味わいを、色と形にしてみたら」というとてもパーソナルな試みを企画者と共有できるオープンアトリエが4月9日にあり、円山にある会場に行ってみた。

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案内に書いてあった部屋はここ。勇気を出してノックすると「はい、どうぞ」と優しい声が。

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アトリエ内はワンルームに木製カウンター。壁には絵とその「モデル」となったウイスキーがセットで展示されていた。

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今回で4回目となるオープンアトリエでは企画者の五十嵐雄生さんが所蔵するウイスキーを試飲できる(参加費1000円)。目の前の絵を見ながら感想を交わす空間が、美術館ともバーとも違う「発見」をもたらしてくれる。

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こちらが企画者の五十嵐さん。普段は札幌市内のハウスメーカーにお勤め。バーに連れて行ってもらったのがきっかけでウイスキーの世界を知り「絵は全くの独学です」

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この絵はグレンフィディックとクライネリッシュ14年の印象を一枚に。解説は五十嵐さんから直接聞いた方が絶対に面白い。

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「僕よりウイスキーに詳しい方はたくさんいらっしゃると思います。ただ、自分は言葉で表現するより絵にしてみると単純に楽しかった。絵を見ていただいた方からの感想もすごく楽しみにしています」

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実際に飲みながら描いていく絵はNOMUSURUオンラインストアで販売中。市内飲食店に飾られている作品もある。

「NOMUSURU ノムスル」という名称は、当初ウイスキーの色と形を木版画で表現しようとしていた「飲む・刷る」からきているとのこと。
「でも版画だと飲んだ印象が変わったときの直しが難しくて(笑)。それでにアクリル絵の具をメインにした今の形に落ち着きました」。

作品と解説を掲載した「NOMUSURU」小冊子も作っており、現在第2号が発売中だ。
「ウイスキーを飲んだことがないという方にもウイスキーやバーに関心を持っていただけるきっかけになれたら嬉しいです」と五十嵐さん。
うちでも取り扱いたいという方は、ぜひインスタからコンタクトをとってもらいたい。

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「NOMUSURU」第2号(A5サイズ・カラー40ページ)は1冊800円(税込)。2号はご覧の全10作品が掲載されている。

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中身をチラ見せ。丁寧な構図解説があり、実物が見たくなる。

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香水のように「はじめ」と時間とともに移ろう「変化」を1枚の中に表現している。

今回のようなオープンアトリエは不定期に開催しているとのこと。インスタでの告知をどうぞお楽しみに!

ノムスル(instagram)

【NEWS03】
少部数でもハードカバー! 札幌の石田製本が提案する
ハイクオリティの製本サービス「CRAFT ZINE」スタート

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上記の「ノムスル」の世界観が小冊子(ZINE)にもなっているように、今は誰もが気軽に本づくりを楽しめるZINEマーケットが活況を見せている。

2023年4月、札幌の石田製本もハードカバー製本の自費出版サービス「CRAFT ZINE(クラフトジン)」をスタートした。

CRAFT ZINE

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CRAFT ZINEのサイズはA5縦型と150mm×150mm正方形の2種類。サイトではひとめでわかる入稿テンプレートも用意している。

ポイントは以下の4つ。

  • 表紙は文芸書のようなハードカバー仕様
  • 開きやすい中ミシン綴じで強度も安心。ミシン糸も7色から選択できる。
  • 在庫の心配が入らない少部数印刷(10部から受付可)
  • 製本職人が一冊一冊丁寧に検品チェック

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2023年2月には先行して札幌の地下歩行空間で道内外のクリエイターが制作したCRAFT ZINEのサンプル展を開催。興味を持って手に取る人が多かった。

ZINEづくりは「ノムスル」を見てもわかるように文章だけとは限らない。イラスト・写真・デザイン・アート・詩・エッセイなど作り手の数だけ表現手法が広がる自由な世界だ。

ただ自費出版という性格上、コストを考えるとソフトカバー(表紙が柔らかい並製本)が主流で、「やりたいけれどなかなか手が届かない」のがハードカバーの製本だった。

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硬くてしっかりした紙で本文を包み込むハードカバー。上製本とも呼ばれる。

そこを今回、石田製本は同社の人気サービスである「いしだえほん」や卒園アルバムの実績をもとに、ハードカバー製本を少部数で受け付ける窓口を設けて敷居を下げる試みだ。
先行してサンプルを作ったクリエイターたちからは「仕上がりに満足」という声が多数上がっており、オープンしたばかりのサイトにもすでに問い合わせが来ているという。

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本棚のいろんな作家に混じって自分のZINEの背表紙が見える。そんな特別な光景を見せてくれる石田製本のCRAFT ZINE、新しい出版文化に挑戦する。

CRAFT ZINE

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