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第530回 UNTAPPED HOSTELが作る新刊書店「Seesaw Books」

「UNTAPPED HOSTEL」代表の神輝哉さん

ゲストハウス「UNTAPPED HOSTEL」代表の神輝哉さん。取材にうかがったのは9月末、真新しい白木の書棚が美しい新刊書店「Seesaw Books」を見せていただいた。

[本のある空間紹介]
クラファン達成率488%!
全国から支援を集めた「書店+シェルターハウス」構想
10月30日オープン前の「SeeSaw Books」を訪ねて

[2021.10.11]

売上9割減のゲストハウス別館を生活困窮者のシェルターに

2021年8月10日から支援の募集を始めたクラウド・ファンディングプロジェクト[札幌に、カルチャーと公共の境界線を溶かす「書店+シェルター」をつくりたい!]が、募集初日で目標額150万円を達成したことはたちまちSNSで拡散された。

札幌に、カルチャーと公共の境界線を溶かす「書店+シェルター」をつくりたい! - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

camp-fire.jp

それから1カ月後、募集期間を終えた最終結果は大阪や福岡からも集まった全国の支援者数が580人、総額732万円4925円。達成率488%という驚異的な数字が、人々の関心の高さを物語っていた。
札幌の北海道大学に近い北18条エリアで新しく誕生する「書店+シェルター」が、なぜここまで人々の心を掴んだのだろうか。
本プロジェクトの代表を務める神輝哉さんにお話をうかがった。

ゲストハウス「UNTAPPED HOSTEL」

地下鉄「北18条」駅から歩いてすぐのゲストハウス「UNTAPPED HOSTEL」。元はうなぎ屋の5階建てビルといえば、ピンとくるひとも多いのでは。壁には明治時代に日本を訪れた紀行作家イザベラ・バードの著作『日本奥地紀行』の一節が札幌在住のアーティスト相川みつぐさんによって描かれている。

1階には「ごはんや はるや」とテイクアウト専門店「万春や」さんが入っている。

1階には「ごはんや はるや」とテイクアウト専門店「万春や」さんが入っている。

書店ナビ先に駆け足で「書店+シェルター」プロジェクト開始までの状況をおさらいしますと、札幌出身の神さんは早稲田大学第一文学部英米文学専修を卒業後、出版社「主婦の友社」の営業職を4年半勤め、30歳で札幌にUターン。2014年、北18条西4丁目にゲストハウス「UNTAPPED HOSTEL」をオープンしました。

2020年の年明けから日本国内にも新型コロナウィルスの影響が出始め、UNTAPPED HOSTELも前年対比の売上が「9割近く激減」。
事業継続に悩んでいた神さんは、SNSで見た「都内でネットカフェ難民が急増」の投稿をきっかけに、「札幌でもそういう人たちがいるかもしれない。今空いている部屋を使ってもらえたら」と動き出し、2020年5月から別館を生活困窮者のためのシェルターにし、再スタートを切りました。

実を言うとコロナの影響を受ける前、2019年ごろからすでに札幌市内のゲストハウスは飽和状態になっているという危機感はありました。でもまさか、こういう世の中になるとは夢にも思ってもいなかった。

友人がシェアしたネットカフェ難民の投稿を見たあと、「北海道の労働と福祉を考える会」に「何かお手伝いできることがあれば」とメールを出し、そのあとは札幌市の生活保護課の方々が視察に来られて…とスムーズに話が進み、これまでに80名を受け入れました。

入居期間は人によってさまざまで、3日で出て行かれた方もいれば、2カ月の滞在も。年齢は10代から80代。僕の印象では30代から50代が多かったように感じます。
男性ゲストが全員出た後に初めて女性ゲストも受け入れ、その方が7月15日に出て行かれて一区切り。10月30日の新刊書店オープンが落ち着く11月ごろに再開する予定です。

アメリカ一人旅がゲストハウス経営の原点になっている神さん

19歳のときのアメリカ一人旅がゲストハウス経営の原点になっている神さん。学生時代はクラブやDJカルチャーにハマり、アメリカ現代詩を好んで読んだという。

コロナ禍の今じゃなかったら「書店」という選択肢はなかった

書店ナビクラウド・ファンディング「Good Morning」のプロジェクトページにも神さんの思いが詳しく書かれていますが、通常の新刊書店経営も難しい現代に「書店+シェルター」という選択肢は、周囲も驚かれたのでは?

札幌に、カルチャーと公共の境界線を溶かす「書店+シェルター」をつくりたい! - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

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「どうやって生きていくんだ」と心配してくれる友人もいました(笑)。ただ、2018年に「UNTAPPED HOSTEL」を法人化した時の定款に「書店経営」という一言はそっと忍ばせていたんです。
僕の中で「いつか、できたらいいよな」という夢はあったんですが、それがこのコロナ禍で思わぬ形で実現した。逆に今じゃなかったら「書店」という選択肢はなかったと思います。

幸い、「UNTAPPED HOSTEL」にはこれまで本館のゲストハウスで培った人脈や新しいシェルターとしての機能の中で始まった出会いがあります。
ここに集まる人たちにとって本あるいは文字がクッションになるイメージ、イベントや飲食もトータルに組み合わせて場所自体がメディアになっていく、そんなイメージを思い描いています。

本館の右側にある通路を進んで別館へ

本館の右側にある通路を進んで別館へ。

別館入口

徐々に書店が出来上がりつつある別館入口。元は民家で、仲良くしていた家主が家を手放すことになり、神さんに直接声をかけてきた。

書店ナビ書店経験のない神さんたちを、東京・神楽坂の書店「かもめブックス」の柳下恭平さんが親身になって応援してくださっているとか。

そうなんです。とても謙虚な方なので「こうすればいい」みたいなことはおっしゃらないんですが、その背中を見ていれば本や業界に対して愛が深いことがひしひしと伝わってくる。
「こういう人がいるんだったら、こういうことをしても大丈夫だ」と思わせてくれる心強い存在です。

子ども時代に遊んだシーソーのように視界が広がる喜びを

書店ナビ「書店+シェルター」経営のために支援を募ったプロジェクトが、目標額150万円に対し総額732万円4925円が集まりました。あとちょっとで達成率500%という驚異的な数字です。

初日で100%達成できたときは一瞬何が起きているのかわかりませんでした(笑)。SNSで次々と拡散してくれた知り合いやプロジェクトを通さず直接支援してくれた友人たちもいて、皆さんにただただ、感謝の一言です。

ご支援いただいたお金は大きく分けて3つ、本の初回の仕入れとシェルターの運営費、そして新しく立ち上げる一般社団法人の運営費に使わせていただきます。

順に説明していきますと、本の仕入れは現在トーハンさんにお世話になっており、リストを作っていくうちにトータルで3500冊くらいになりました。最初から自己資金を投入するつもりでしたが、皆さんのおかげでその額を小さくできそうです。
シェルターの方もこのあと一年間は継続できる家賃や水道光熱費をこの支援金からプールし、さらに今後、炊き出しの強化とか中身を充実させていきたいシェルター運営機能を担う一般社団法人のスタートアップ費に投入します。

書店ナビスタッフは現在何名いらっしゃるんですか?

「UNTAPPED HOSTEL」は今、僕を含め4人のスタッフで回していて、書店も本館もシェルターもこの4人が駆けまわります。

近所にある古書店の「BOOK LAB.」のスタッフさんも「本詰め、手伝いますね」と言ってくださって、仲良くしていただいています。
近所といえば、今後は北大の先生や学生さんたちとも何か一緒にできたら面白そう。トークイベントとかやってみたいですね。

書店の名前は決めました。「Seesaw Books」。公園にあるシーソーです。
シーソーの語源は諸説ありますが、see(見る)とsaw(見た)があのシンプルな上下運動で入れ替わる、その視界が広がる喜びを感じていただきたいのと、もう一つは片方が下がれば片方が上がる、両者が影響を与え合う構造がお互いにとってポジティブにはたらいたらいいなという願いを込めて。
ロゴは、友人のデザイナー佐々木信さんが考えてくれました。

白木の書棚が明るい雰囲気の「Seesaw Books」

白木の書棚が明るい雰囲気の「Seesaw Books」は17坪。人文書を中心に旅やアート、福祉関連、思想書、児童書なども取り扱う予定だ。

ストッカーはキャスター付きで、イベント時には椅子がわりになる。

ストッカーはキャスター付きで、イベント時には椅子がわりになる。「プロジェクタを使った上映イベントも可能です」

クラファンで早々に完売したリターン「棚オーナー」用の棚は全部で20枠。

クラファンで早々に完売したリターン「棚オーナー」用の棚は全部で20枠。「本を中心とした表現の場にしてもらえたら」と語る神さん。シェルター活動で連携してきた札幌市ホームレス相談支援センターからも申し込みがあったという。

書店ナビ10月30日オープンの「Seesaw Books」、これからも書店ナビで追いかけていきたいです。

ありがとうございます。本音を言うと、クラファンで予想以上に支持していただいたとはいえ、経営全体を考えると"我慢のとき"は当分続くと思っています。
ゲストハウスとシェルターと書店、どれも一緒に走らせながら次の手を考える。その中から生まれ出るものを僕自身が一番楽しみにしています!

UNTAPPED HOSTEL-アンタップトホステル- | 北海道札幌市のゲストハウス

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ゲストハウス「UNTAPPED HOSTEL」2

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